9:30 | プレイベントのプレイベント:Text Encoding Initiativeガイドライン・
チュートリアル(永崎研宣) このチュートリアルに参加希望の方は資料の準備が必要ですので前日までに参加申込みをしてください: nagasaki _at_ dhii.jp宛 本チュートリアルに参加されない場合には13時からの会にご参加ください。(少し早目にお越しいただけるとありがたいです)。 ※TEIに関して勉強してみたい人向けです。HTMLについて多少知っているくらいの人~XMLをなんとなく知っている人が対象です。 |
12:00 | 休憩 |
13:00 | シンポジウム全体趣旨説明 |
日本文学研究とデジタルテクストの諸課題 | |
13:10 | 杉浦静(大妻女子大学) 「日本近現代文学研究における草稿研究とデジタル化 ―富永太郎草稿のデータベース化の場合」 |
13:50 |
大内英範(筑紫女学園大学) 「古典研究とデジタルテクスト」 |
14:30 | 休憩 |
デジタルテクストの活用に向けて | |
14:50 | 宮本隆史(東京外国語大学) 「近代制度史における資料のデジタルテキスト化の可能性と課題:植民地インド 史研究からの提議」 |
15:30 | 大久保友博(大阪市立大学) 「底本を電子化する──青空文庫の共同翻刻について」(仮題) |
16:10 | 休憩 |
文献学的構造化に向けたデジタル技術の実践 | |
16:20 | 苫米地等流(人文情報学研究所) XMLを用いたサンスクリット文献校訂本の作成 |
17:00 | 全体討論 |
Web技術の発展にともない、人文学資料向けのWebサービス(以下、人文系Webサービス)においてもサービス同士の相互連携をはじめとする様々な面での新しい可能性が大きく拓けてきているが、古い設計に基づくシステムやデータの改良は容易ではなく、結果として、最先端のWeb技術が投入されたものとそうでないものとが入り乱れた状態になっており、利用者にとっての利便性という観点からは改善の余地がますます大きくなってきている。このような状況に対して、京都大学人文科学研究所共同研究班「人文学研究資料にとってのWebの可能性を再探する」では、人文科学研究所における各種Webサービスを中心としつつ、その共同班班員が関わっている様々なWebサービスの事例も含め、現在のWebサービスとして求め得る水準と実際のそれの距離を再検討することで、それを縮めるための方策を明らかにすることを目指し、研究会を重ねてきている。この再検討にあたっては、各種人文系Webサービスの研究における意義だけでなく、当初計画や依拠する規格、予算の性格、低コストでの改良可能性など、学会研究会で報告されにくい部分にも焦点をあてていくことで、問題の具体的な解決策に少しでも近づけることを目指している。
このような文脈を踏まえつつ、このたびの公開シンポジウムでは、「東洋学におけるテクスト資料の構造化とWebの可能性」に焦点を絞り、共同研究班の枠を超えて広く議論し、問題を共有することを目指している。この点に焦点を絞る理由としては、欧米に比べて我国におけるテクスト資料構造化への志向性が未だきわめて弱いこと、西洋の人文学資料における議論と実践に比べて、東洋のそれが大きく立ち後れていることが挙げられる。当然のことながら、そこからWebへのつながりも極めて弱いままであり、この問題に何らかの解決策を講じることはもはや喫緊の課題となっている。
この背景について多少補足すると、すでに欧米では1987年よりデジタル媒体上でのテクスト資料の構造化に関する包括的な方針についての試行錯誤が続けられてきており、その成果としてのTEI P5 Guidelines (いわゆるXMLのサブセット)がまとめられて公開されており、これに基づく様々なテクスト資料が公開されるようになってきている。この取り組みは、当初より、オープンなガイドラインの形成と共有を通じてデジタル媒体上での人文学の研究活動を効率的かつ実り豊かなものにしようとするものであり、その双方を満たそうとすることの困難さを露呈し続ける過程でもあった。関係者の多大な努力の結果、現在では人文学各分野の多様な要求を相当程度まで取り入れることができてきている。さらに近年のOpen Government、Open Dataという潮流にも後押しされることになり、人文学資料のデジタル化と公開に際してそのテクストに関する構造を示しつつ様々な要素を付加するための有効な手段として、TEI P5 Guidelinesが広く用いられるようになっている。そして、TEI P5 Guidelinesに準拠して作成された構造化テクストは、それをターゲットとして開発され公開された様々なアプリケーションを通じて、効率的に、Webに公開されたりデータベースに格納されたりすることが可能となっている。
しかしながら、これは当初より欧米中心で始まったものであり、東洋学におけるテクスト資料については、特に当初の段階では技術的なレベルからして対応がきわめて困難な状況であった。近年、文字コードや計算処理、データ共有にかかる時間といったいくつかの技術的な大きな制約が取り払われたことで、改めて東洋学におけるテクスト資料への適用を検討できる状況になっている。これが可能になった暁には、TEI Guidelines向けに開発された様々なアプリケーションの活用が可能となる。このことはすなわち、デジタルテクストを用いた人文学研究の国際的な流れのなかに東洋学テクスト資料がようやくのせられることになるのだが、同時に、それらのアプリケーションに関しても、東洋学テクスト資料への適用可能性を問題にする必要が出てくるだろう。これらの一連のことは、困難な仕事ではあるが、同時に、人文学研究の新しい局面を切り拓き得る重要な基礎作りとそれに基づく新たな実践につながっていくことだろう。
このような射程から、本シンポジウムでは、アジア圏のテクスト資料のデジタル化の必要性と問題点について、気鋭の研究者の皆様にご登壇いただき、テクスト資料に関わる実践の場から改めて問い直し、これまでの課題を整理しつつさらに議論を深めることを目的とする。